【ただの自己犠牲??】働きバチの社会性の謎

公園などでしばしば見かける社会性を持つ昆虫

ハチ目(膜翅目)ミツバチ科に属する『ミツバチ』ですが、

よくその勤勉さが取り上げられることがありますよね。

働きバチは幼虫の世話をしたり、外敵から巣を守ったり、花から蜜を集めてきたり、、

しかし、こうした私たちが普段見かける

働きバチは、一生に一度も子どもを産まないことはご存じでしたか??

一見、これを聞くと働きバチは女王蜂に対して非常に強い忠誠心があり、自己犠牲をしているように見えるかもしれませんが、実はそうではないのです。

今回は、働きバチの一見自己犠牲に見えるような行動の理由とハチの特殊な生殖や社会性の謎について解説していきます。

働きバチは全てメス

まずはじめに、私たちが普段見かけるミツバチの働きバチは全てメスです。

同じメスの女王バチとは大きく区別されており、

働きバチは目が大きく、体毛が多く、卵巣が小さく、生殖能力がなく、さらに攻撃するための針を持っています。

このように働きバチは蜜を集めたり、外敵から巣を守るために特化した形態をしています。

しかし、これら利他的な行動や進化は、ダーウィンの進化論

『自然選択説』の「生物は自らの子孫をより多く残すように進化する」とした主張と矛盾しています。

我々の感覚的にも自分の繁殖を差し置いて、他人の繁殖を助けるというは考えにくいでしょう。

ではなぜこうした矛盾とも見える進化を遂げたのでしょうか?

それはハチの特殊な生殖の仕組みにあります。

生き物の遺伝子

ここからは少し、ミツバチの性質を理解するために話とは逸れて遺伝子のお話をします。

まず、生き物の身体の中には必ず

遺伝子と呼ばれる身体を構築するタンパク質の設計図のようなものが組み込まれています。

この設計図は細胞の核の中にある染色体に格納されており、

父親と母親から1組ずつ染色体を受け継ぎ、2組の染色体をもっています。

このような生き物の染色体は、二倍体(にばいたい)と呼ばれ、最も一般的で我々人間もこの仕組みです。

しかし、このような仕組みではない生き物が一定数存在します

その生き物こそが、「ミツバチ」です。

半倍数性

ミツバチのメスは人間と同様に二倍体で、父親と母親の二組の染色体をもっています。

しかしオスについては少し異なります。

上の図を見ていただけるとわかりやすいのですが、オスは女王蜂のみから産まれ、父親を持ちません。つまり、女王蜂の無性生殖により産まれます。

そのため、オスは母親から1セットのみの染色体を引き継ぎ、父親分の染色体を持ち合わせていないので、おのずと染色体の数も一組になります

つまり、ミツバチのオスはメスの半分の染色体しか持っていないのです。

このような生き物の染色体を一倍体(いちばいたい)と言います。

さらに、驚くべきことにハチはこの染色体の数によって性別がオスかメスかが決定されます。上記の通り、二組の染色体をもつのがメス。一組の染色体をもつのがオスです。

このような性決定の仕組みを「半倍数性」と言います。

遺伝子と働きバチの自己犠牲

ここまでミツバチの生殖や遺伝について述べてきましたが、

これは働きバチの一見自己犠牲に見えるような行動や社会性に密接に関係があります。

話は少し変わりますが、なぜ子どもを産むのかを考えたことはありますか?

それは自分の子孫を残すためですよね。

これって言い換えたら「遺伝子を残すため」とも言えませんか?

「遺伝子を残す」ということが今回の重要なキーワードになってきます。

通常、二倍体の生き物は有性生殖をするときに「減数分裂」を行います。

減数分裂とは母親と父親からもらった二組の染色体を子どもに引き継ぐときに、二組の染色体を組み替えて、半分の一組の染色体にすることです。

しかし、ミツバチのオスは前述の通り一倍体で、半分の染色体しかもっていないため、

そのまま全ての染色体を子供に受け継ぎます。

ここからが問題です。下の図を見てください。

こちらはハチの系統図を簡略的に表した図です。

黄色で囲われた④のハチを中心にみていきます。

④は A遺伝子W遺伝子 を持っていると確定します。

父親①との関係を見てみましょう。
①はオスで一倍体なので全ての A遺伝子 を④に全て引き継いでいます。
よって、遺伝割合は100%です。

ついで母親②との関係を見てみましょう。
母親②はメスで二倍体なので W遺伝子x遺伝子 の二つを持ち、
④は片方の W遺伝子 のみを引き継いでいます。
よって、遺伝割合は50%です。

そして姉妹③との関係を見てみましょう。
③は④と同様に父親①からA遺伝子を100%引継ぎ、
母親②からは W遺伝子 もしくは x遺伝子 を引き継いでいます。
姉妹はどちらの遺伝子も継いでいる可能性があるため、
④と同じ W遺伝子 を持つ可能性は50%です。
これらの遺伝割合を計算すると
(100%+50%)÷ 2 = 75%の遺伝割合となります。

子ども⑥についても母親②と同様に考えると
遺伝割合は50%となります。

この結果から見て取れることは、④の観点から遺伝割合を見たとき
子ども⑥(遺伝割合50%)より姉妹③(遺伝割合75%)の方が遺伝割合が高いというです。

これが、働きバチが自己犠牲をしているように見える原因です。
一見、女王蜂に忠誠をもって、産んだ子ども(姉妹)を世話しているように見えかもしれませんが、
働きバチは自分で子どもを産むよりも母親である女王蜂に姉妹を産んでもらった方がより多くの遺伝子を残せるのです。

これを見ると、さも遺伝子がハチの個体自身を動かしているように見えるかもしれません。

リチャード・ドーキンス博士の『利己的な遺伝子』という著作にはこのような主張がされています。
このような社会性をもち利他行動とも思える生物進化の謎を私よりもはるかに詳しく解説していますので是非読んでみてください。

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